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「眠らない社会」に抵抗する

(image via PHOTOHITO)

スマホの普及で、私たちは四六時中、メールやSNSを気にしながら生活するようになりました。

仕事であれプライベートであれ、スマホに表示される通知には迅速な応答が求められます。

常にスマホで繋がっている社会では、働いている時間と、それ以外の時間を区別するのが難しくなってきました。

コロンビア大のジョナサン・クレーリーは、このような社会を「テクノロジーによって、24時間休日なしに、いつでもどこでも管理されている社会」と定義します。

そこで問題になるのは「不眠」と「注意力の減衰」について、クレーリーの「24/7 眠らない社会」の内容を紹介しながら、考えます。


資本主義は、不眠を夢見る


眠りは、何も生み出さない、非生産的なものであると考える人たちがいます。

例えば、工場が登場した時代には、「いかにうたた寝をさせず、労働者を仕事に集中させるか」が課題になりました。

哲学者のヒュームは、眠りを、熱病や狂気と同じで、「人間本来の活動が阻害されているもの」ととらえました。

実際、睡眠を克服するための研究は、世界各地で大々的に行われています。

例えば、アメリカの国防総省は、7日間も眠らずに飛び続ける渡り鳥の脳活動の研究に、巨額の研究資金を投資しています。

眠らない渡り鳥の脳活動を人間に応用することで、不眠の兵士を作ろう、というわけです。

このように、「眠りは最小限にとどめるべき」という価値観が広まっています。

実際、人々の睡眠時間は、年々減少しています。ある調査によると、北米の成人の平均睡眠時間は、1900年頃には10時間程度だったのが、今では6時間半になってしまった、といいます。


アテンション・エコノミー


この睡眠時間の減少の要因には、「アテンション・エコノミー」の台頭があります。

人間が処理できる情報の量には、限界があります。一方で、情報の量自体は、テクノロジーの発達によって、加速度的に増えています。

情報があふれる中で、いかに人の注意(アテンション)を集められるか。これがビジネスを成功させるために重要になってきます。

実際、TwitterやFacebookのタイムラインにも、人々の注意を獲得するために、様々な広告が流れています。

人々の注意を獲得するための競争が激しくなると、睡眠の時間まで奪われていきます。

「SNSをやっていたら、寝るのがつい遅くなってしまった」という経験は、皆さんにもよくあるのではないでしょうか?


ハイパー・アテンションとディープ・アテンション


常時接続されるスマホを舞台に、人々の注意(アテンション)が奪われていきます。

こうなると、人間の「注意」の性質自体が変わっていきます。

メディア論者のヘイルズは、「注意」を、二つの能力に区別します。

一つが、「ハイパー・アテンション」と呼ばれるもので、マルチタスク作業が要求されるときに、注意の対象をあるものから別のものへ、即座に切り替える能力です。

もう一つが、「ディープ・アテンション」と呼ばれ、一つの対象に、集中的に長時間注意し続ける能力です。

現代社会で求められるのは、そつなく複数の課題にマルチタスクで対処していく、「ハイパー・アテンション」ではないでしょうか。

また、スマホで注意が奪われる中で、「ディープ・アテンション」は衰えざるをえません。

そうなると、本当に大切なものを見つけ、それにとことん向き合うことができなくなっていきます。

実際、メディア論者のヘイルズは、「ディープ・アテンション」の衰えと、心身の病理を結び付けて論じています。


眠りとマインドフルネス


では、どうすればいいのでしょうか。

クレーリーが主張するのは、「アテンション・エコノミーに、睡眠によって抵抗する」ということです。

現代の資本主義は、熱狂も、ゴシップも、人々のつながりも、あらゆるものを商品にして、人々の注意を奪おうとします

眠りによって、こうしたアテンション・エコノミーから距離をとること、これが、クレーリーの主張する解決策です。

この「眠り」を、字義通りにとる必要はないと思います。

例えば、日常の喧騒から離れ、「いま、この瞬間」に集中するマインドフルネスも、アテンション・エコノミーへの抵抗にもなりますし、「ディープ・アテンション」を回復する手段にもなります。

「24/7 眠らない社会」で、美術史家でもあるクレーリーは、このような睡眠に着目した芸術家として、シュルレアリストのアンドレブルトンなどの芸術的な実践も紹介しながら、「眠り」の意義を考えています。

興味のある方は、是非ご一読をお勧めします。

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参考書籍:『24/7:眠らない社会』(ジョナサン・クレーリー)