Press "Enter" to skip to content

不安な経済/漂流する個人

(Image Via Joachim Heinrich)

「不安な経済/漂流する個人」は、アメリカの社会学者、セネットの著作のタイトルです。

この本でセネットは、次のような主張をしています。

“経済が不安定化することで、個人が「自分のストーリー」を生きることが困難になった

いうまでもなく、ひとりの人間の生き方は、その時代の社会や経済の影響を強く受けます。

では、セネットは両者の間に、どのような関係を見ているのでしょうか。

そこに、マインドフルネスな生活について考えるヒントがあると思われるので、簡単に内容を紹介したいと思います。


資本主義 = 不安定?


セネットは、いま私たちの周りに当たり前にある「経済」について考えるために、資本主義の歴史を振り返ります。

資本主義への批判で有名なマルクスは、資本主義が社会を不安定にすると指摘していました。

例えば、マルクスが生きた1850年頃のロンドンでは、

・雇用が不安定で、失業率は4割に達していた
・自分の勤務先が、突然倒産することがよくあった

この通り、マルクスの生きた時代では、「資本主義=不安定なもの」だったのです。

ところが、マルクスの批判に反して、企業は、経営を安定化させることに成功しました。

ピラミッド型の組織を経営に導入することで、企業は、

・事業の寿命が長くなり、同じ企業に生涯勤めるのが一般的になった
・成果を上げれば昇進するというわかりやすいストーリーを提供
・従業員同士の結束が強まり、長期的な人間関係の土台に

このように、企業は、人々が生きていくうえでの長期的な展望や、人間関係の場を与える存在になったのです。


流動化する雇用


しかし現代では、企業の果たす役割が大きく変わりました。

この変化の要因としてセネットが指摘するのは、「株主資本主義」の広まりです。

これまで、経営者は、自分の会社と社員のことを考えていればよかった。

ところが、1970年代にブレトン・ウッズ体制が崩壊すると、巨大な投資マネーが企業に回り始めました。

すると、経営者ではなく、短期的な投資リターンを求める株主が、力を持ち始めます。

結果として、組織の安定よりも、短期的な利益を出すことが重視されるようになります。

あのIBMやヒューレット・パッカートなど、多くの企業が終身雇用の方針を撤廃しました。

終身雇用が撤廃されると、雇用が流動化し、人々は複数の企業を渡り歩くことになります。

それは、人々が、「市場から不要と判断されたらどうしよう」という不安を抱えながら生きることを意味します

こうした事態を、カリスマ的な投資家であるジョージ・ソロスは次のように表現していす。

“人々は「関係」ではなく、「取引き」によって結ばれるようになった”


いかに自分のストーリーを紡ぐか


ストーリーとは、時間の中で出来事を結びつけ、経験を積み上げていき、自分の人生の展望を描くことです。

不安定な経済の中では、個人はよるべなく漂流し、場当たり的に生きざるを得ません。

このような状況の中で、いかに人々は「自分のストーリー」を紡いでいけるのでしょうか。

セネットは、本書の末尾で、「物語性」、「有用性」、「職人技」という三つの価値について触れながら、そのヒントを書いています。

興味のある方は、是非本書を手に取ってみてください。

「マインドフルネス」は、抜本的な解決策にはなりえません。しかし、こうした問いと付き合っていくための、ささやかな助けにはなるでしょう。

* * * * * * * * * *

この記事のご感想など、是非「#NemSuya」でシェアください。
今後記事を執筆していくうえで、参考にさせていただきます。

参考書籍:『不安な経済/漂流する個人』(リチャード・セネット)